【書評】『中学受験 親たちの受験戦争 下剋上には理由がある』── 大手塾のカリキュラムに乗れない子どもたちへの、もうひとつの選択肢
中学受験を扱った小説や漫画などいろいろありますが、大手進学塾のカリキュラムに沿ってひたすら勉強を積み上げていく、というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。今回ご紹介する『中学受験 親たちの受験戦争 下剋上には理由がある』は、そうした「王道」のやり方だけが中学受験の正解ではない、ということを教えてくれる一冊でした。
(ここから内容について)
中学受験に臨む小学生は、受験学年の6年生になった段階でも、発達の程度に大きな個人差があります。どれくらい忍耐強く勉強に向き合えるか、我慢できるか、集中力がどれくらい続くか・・・学力そのものとは別の次元で、そういった面でも、かなりの差があるものです。
大手進学塾のカリキュラムは、いわば「標準的な子ども像」を前提に組まれているため、そこに乗り切れない子どもが一定数出てきてしまいます。本書は、そうした子どもたちに向けて「大手塾のやり方に合わなくても、こういう形で中学受験を乗り切る方法がありますよ」という視点で書かれた本だと感じました。
「みんなが苦労しているポイント」に寄り添う構成
本書の内容は、「大手進学塾のカリキュラムでは、ここに苦労していませんか?」という問いかけから始まり、「うちではこんな工夫をしています」という具体的な提案へとつながっていく構成になっています。受験指導を細かくサポートするという筆者のグループの耐性を紹介するという意味で商売的な要素は感じますが、日々のプレッシャーにつかれ、きめ細かなサポートを希望されているご家庭も多い中では、魅力的な体制にも見えます。
多くの受験生・保護者が共通してつまずきやすいポイントをまず提示し、そこで生じるストレスをどう和らげるか、という順番で語られていくため、読んでいて「うちも同じところで悩んでいる」と共感しやすい作りになっています(というかしました)。単なる精神論ではなく、実際の困りごとを起点にしている点が、読者にとって取り組みやすい構成だと感じました。
「受験をハックする」という視点
印象的だったのは、今の中学受験制度そのものを前提とした上で、「受験をハックする」ともいえるような、制度をうまく利用する視点が随所に感じられたことです。
これについては読む人によって賛否が分かれるところかもしれません。しかし、受験という制度自体の中で、いかに子どもの負担を減らしながら結果を出すか、という発想は、実際に受験を乗り越えるという目的においては十分に有効なアプローチだと思います。
理想論だけでなく、現実的な「攻略法」としての側面を持っている点も、本書の特徴のひとつだと感じました。
後半は「心」に寄り添うパート
本書の後半では、苦しんでいる子どもたちが少しでも幸せな気持ちで受験と向き合えるように、という、感情に訴えかける内容が用意されています。
本書の根底にあるのは、「中学受験は親の受験である」という筆者の主張です。子どもたちは、成績が思うように伸びないことや、遊びたい気持ちを我慢しなければならないことに加えて、親からの期待というプレッシャーをも背負います。
一方で、親の側もまた、「こうあってほしい」という理想と、目の前の子どもの現実とのはざまで悩みを抱えています。本書は、そうした親自身の考え方や関わり方が変わることで、親子ともに感じている悲しみや辛さを減らせる可能性がある、という視点も示してくれます。
中学受験は学力面だけでなく、精神的な負荷も非常に大きいものです。このパートは、そうした精神的なストレスを和らげる効果も期待できる構成になっていると感じました。テクニック論だけで終わらず、子どもの気持ちに寄り添う視点が最後に用意されているのは、読後感としてもよいバランスだと思います。
まとめ:違う形の「救い」を提示してくれる一冊
中学受験は、その結果によって人生が大きく決まってしまうかのようなプレッシャーを感じてしまう保護者や子どもも少なくありません。そうした重苦しさの中で、本書は「大手塾のやり方だけがすべてではない」という、少し違った角度からの選択肢を提示してくれます。
大手進学塾のカリキュラムに乗り切れずに悩んでいる家庭にとって、本書はひとつの「救いの手」になり得る内容だと感じました。中学受験のやり方に画一的な正解はない、ということを改めて考えさせてくれる一冊です。